以下のコラムは、有料メールマガジン「日刊アクトパスNEWS」にて、温浴関連事業者様向けに書かれた記事を、ロウリュ事典のために加筆修正して公開しております。(執筆者:望月 義尚)
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◆セルフロウリュ時代来たる
メルマガ499号で大成功とご紹介した熊本市 湯らっくすのリニューアル、その目玉のひとつが浴槽を減らしてまでして作られたメディテーションサウナです。
瞑想をコンセプトにつくられたその新しいサウナ室は、最大収容人数10人くらいと大きくはありませんが、随所にこれまでの国内サウナには見られなかった工夫があり、見ればこれまでのサウナの常識が大きく覆るでしょう。
ヨーロッパから直輸入したサウナストーブは当然水掛けができますが、ロウリュは本場フィンランド同様に利用者が自分で水掛けするセルフ方式です。最初からセルフロウリュを前提に作られたサウナとしては名古屋のウェルビーに次いで国内2例目でしょうか。
浴室の中ではお客さまの様々な非常識行為が勃発しますので、私自身もこれまでセルフロウリュ化には慎重でした。
まずは一定期間は施設スタッフがロウリュをやって、ロウリュをよく分かっているリピーターを増やして、ロウリュのやり方や注意点を掲示して、セルフ用には水を掛けすぎないよう小さめの柄杓を用意して…と入念に準備してからようやく実施可能と考えていました。
湯らっくすの場合は、運搬式の熱岩石を使った研修を経て、加湿専用のストーブを追加設置してアウフグースを初めてから、約一年の時間をかけて、今回のメディテーションサウナです。
笹塚のマルシンスパさんでもロウリュ開始から約一年かけて、常連さんに充分な啓蒙をしてからセルフ化しました。
ところが、昨日移動の乗り継ぎに時間があったので、岩手県花巻市にある東和温泉に立ち寄ったところ、なんとセルフロウリュだったのです。
ロウリュをしている施設は桶柄杓などの道具やロウリュ用アロマなどを浴場市場から買っていただくことが多いので、それでチェックしてロウリュ事典にも反映しているのですが、東和温泉はまったくノーマークでした。
いつからやっていたのかは分かりませんが、地元のおじさんたちは普通に水掛けをしてロウリュを楽しんでしましたし、初来店風の若者もサウナ室内の掲示を読んで理解していたようでした。
その様子を見ていると、「なんだ、大丈夫じゃん」という気になってきました。
考えてみれば、日本全国北から南まで、200箇所近い温浴施設でロウリュをやるようになっているのですから、ロウリュのなんたるかを知る温浴ファンは多くなっているのでしょうし、セルフロウリュができる施設も徐々に増えているのですから、その現場を視察することも可能です。
以下はセルフロウリュが体験できる施設一覧。もし漏れがありましたら教えてください。
・湯らっくす(熊本市)
・かじか庵ゆの花(竹田市長湯温泉)
・神戸サウナ&スパ(神戸市)
・ニュージャパンサウナ(大阪市)
・サウナウェルビー(福岡市、名古屋市)
・丸屋玉の湯(東海市)
・マルシンスパ(渋谷区)
・サウナリゾートオリエンタル(港区)
・Spa LaQua(文京区)
・サウナセンター大泉(台東区)
・東和温泉(花巻市)
ロウリュ導入はスタッフの負担が大きなハードルですから、セルフ化できればその悩みはなくなります。
そもそもフィンランドにはロウリュサービスとかイベントという概念はなく、セルフが当たり前なのです。
湯らっくすでは、サウナ室内に置かれた水桶にお客さま自ら水を補給していましたし、東和温泉も平然とセルフでやっている。もうこれは一気に全国に普及するかも!?という予感がしています。
(2017.10.7)
◆ロウリュと地域性
ロウリュ事典に掲載されているロウリュサービス実施店舗を、GoogleMapの機能を使ってプロットしてみました。
https://loyly.jp/
サウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させ、熱風を送るロウリュサービスは、日本全国で160箇所を超える施設に導入されています(現在ロウリュ事典未掲載の施設があり、確認更新作業中)。
その分布状況が初めて地図上で見れるようになったのですが、あらためて眺めてみると、北海道から沖縄まで普及していますが、その分布は東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市圏に集中する傾向があるようです。
これはどうしてなのか?と考えてみました。ロウリュ自体は有償サービスではないので、大きなマーケットを必要とする、といった法則性はないはずです。ロウリュを導入するのに田舎も都会もないはずなのに、実際地方に少ないのは何故なのでしょう。
・ロウリュは大阪から始まった
日本で最初にサービスとしてロウリュイベントを始めたのは大阪のニュージャパンサウナです。そこから現在のような普及状況に至るまでに20年以上の歳月がかかっています。これだけ時間がかかったのは、ロウリュを始めるためには水掛けが可能なサウナ設備が必要になると同時に、運営上の技術やスタッフの育成が必要であり、単なる設備アイテムの導入と違って勉強が必要だからです。
かつてはロウリュを導入してもらうために大阪のニュージャパンサウナに視察に行ってもらうのがパターンでした。まず経営トップに体験してもらってロウリュの価値を肌で理解してもらい、それからスタッフにも勉強してもらい、設備や道具などの準備も整ってはじめてスタートになります。そうなると、大阪へ何度も足を運ぶためにアクセスが良いところでないと難しいという事情がありました。
今はニュージャパン詣でをしなくてもロウリュを体験できるようになりましたので、今後は普及がさらに加速していくのではないかと考えています。
・サウナ入浴者数
ロウリュイベントをする時に、サウナ室にお客さまが1〜2名といった状態だとスタッフのモチベーションはガックリと下がります。1人を相手にしても10人を相手にしても、ロウリュサービスをする労力はあまり変わらず、汗だくのフラフラになるのは一緒だからです。
どうせシンドイ思いをするならたくさんのお客さまに喜んでもらいたいので、サウナの人気がない施設やサウナ室が小さい施設ではロウリュ導入を躊躇することになります。
しかし、地方であっても年間10万人、20万人といった客数を受け入れている温浴施設はたくさんあります。1日200人以上(=年間10万人)の客数があれば、1時間あたり男女それぞれ10人以上の入浴者がいるはずですから、○時からサウナ室でイベントをやりますよ〜と予告すればそれなりに集まるはずです。
それにも関わらずこれまでロウリュが地方に普及しなかったのは、地方の方が良い温泉に恵まれていて、サウナよりも温泉浴槽の方に人気があり、浴場のつくり自体も浴槽重視になっていたためかも知れません。
昨今のサウナブームでサウナファンが増え、節水や省エネの狙いもあって、サウナ室の拡張や増設をするリニューアル手法が注目されています。ロウリュ導入の素地は整いつつあると言えるでしょう。
このように考えてみると、これからは大都市圏だけでなく、地方でもロウリュ導入の動きが活発化してくることが予想されます。全国で200施設を超える日は、そう遠くはないのかも知れません。
(2017.9.12)
◆サウナの温度とロウリュ
ロウリュ実施店舗マップを公開したら、閲覧してくれた方々から未掲載情報を次々といただき、あっという間に全国172施設に増えてしまいました。
以前はロウリュをやっていなかったはずの施設がいつの間にか始めていたりして、弊社の情報網だけでは捕捉しきれないので、ありがたいことです。
リストを更新しながら、ちょっと気になったことがありました。
ロウリュサービス導入とはいってもほとんどの施設が1日に2〜3回程度の開催頻度であったり、中には週に決まった曜日だけ、といった限定開催なのです。
スタッフの負担に配慮して恐る恐るやっていたり、お客さまの反応を含めてまだ様子見といった感じなのでしょう。
前にも書きましたが、サウナ入浴のサイクルに合わせるという意味では30分毎の開催が理想なのですが、現在そこまで頻繁にやっているところはロウリュの本家ニュージャパンと神戸サウナくらいではないかと思います。
現実問題として高頻度の開催はかなり難易度が高い取り組みです。
そこで何が気になるかというと、ロウリュをやっていない時のサウナ室の温度がどうなっているのかということです。
本格的にロウリュをする場合、サウナ室の温度を80度以下に下げる必要があります。そうでないと水蒸気が熱くてとても耐えられないのです。サウナ設備会社にロウリュ導入の相談をすれば、危険なので必ず設定温度を下げることになるでしょう。
しかし、サウナ室の設定温度を80度以下にしていまうと、1日数回程度のロウリュでは、終日サウナ室内の湿度を高く保ち続けることはできないため、ロウリュ後に湿度が下がってくると、ぬるいサウナになってしまうのです。
湿度を適度に維持するためには少なくとも一時間に一度の注水は必要です。ぬるいサウナでは熱さに慣れたサウナファンにはもの足りません。ロウリュサービスの時は人気が出ますが、普段はイマイチなサウナになってしまうのです。
水風呂だけヘビーユーザー向けに冷たくしていたりすると、ぬるいサウナとのバランスがますます悪くなってしまいます。
要はバランスなのですが、このバランスをロウリュ導入によってかえって崩してしまっている施設が少なくないと感じています。
問題への対処法はいくつかあります。
・事前換気
ロウリュサービスの前にサウナ室のドアを開け放ち、タオルの縦旋回をして十分に換気し、温度をしっかり下げてから実施する。通常の温度は90度以上の高温設定。
・自動ロウリュ化
機械的に定期注水できるタイプのサウナストーブを導入(ロッキーサウナやISNESSなど)。ただしイベント性やお客さまとのコミュニケーションはほとんどなくなる。
・アウフグースとロウリュ
トークとパフォーマンスで演出するドイツ式アウフグース、黙って水をかけて静かに水蒸気を楽しむフィンランド式ロウリュというようにイベントを区別し、スタッフ負担を抑えながら注水回数を確保。
・セルフロウリュ併用
ロウリュをよくわかっている常連さんが多いなら、お客さまに自由に注水させるセルフ化も可能。水のかけ方や他のお客さまへの配慮はしっかり啓蒙する必要があります。
このような対策を行わずに、とにかく水掛けできる設備を導入しただけでは、満足度は高まらずロウリュ導入の効果は期待できません。
せっかく負担を覚悟してロウリュイベントを開催するのですから、すでにロウリュをやっているところもこれから導入を検討するところも、このことをぜひ知っておいて欲しいと思います。
(2017.9.13)
◆和のヴィヒタ
「ヴィヒタ(vihta)」という言葉を聞いたことがある方もいると思います。
日本でもいち早くヴィヒタサービスを取り入れた平塚グリーンサウナ太古の湯HPによれば、
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ヴィヒタとはフィン語で、サウナで使用される白樺の枝葉の束のことです。白樺以外でも、カシ、メープル、ユーカリなどを使うこともあります。サウナの本場フィンランド、ロシア、バルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)では、ヴィヒタを使ったサウナ浴が非常にさかんです。背中や、胸、腕、脚、などをたたくことによって、血行促進、疲労回復などの効果があります。また、ヴィヒタの天然のエキスを抽出してロウリュを行うと、森林にいるかのような芳香に包まれリラックスできます。
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とあります。
要するにサウナの中で、水につけた白樺の枝葉の束を使って全身を叩くことで、乾布摩擦のように皮膚への刺激と、植物エキスによる効能を得る行為です。白樺をつけた水をサウナストーンにかけると、とても良い香りがします。
以前私も運営施設で実践してみたことがありますが、適度な皮膚刺激は心地良いし、白樺の香りが森林浴のようで楽しめます。
しかし、温浴施設のサービスとして定着させるためにはちょっとハードルがあります。それは、
・白樺の枝葉を束ねたものの安定供給とコスト
・これまでの日本人の入浴習慣にないので、啓蒙が必要
・葉が落ちるのでその清掃
といったことです。
私がやった時は親戚が長野県に住んでいるというスタッフがいたので、お願いして手間賃だけで白樺の枝葉を調達できたのですが、継続的サービスにするとなるとその方法では難しくなります。今はネットで通販サイトがあったり輸入する方法もありますが、コスト負担は気になるところです。
そこで、白樺以外に、日本で普通に手に入る植物を使ってみてはどうかと思ったのです。以前お風呂に浮かべる植物としてヨモギやタンポポ、ドクダミ、柿などその辺に生えている植物に薬効があると書いたことがありますが、ヴィヒタも同じだと思います。
それぞれの植物ごとに、どのくらいの量を束ねたら良いか、生と乾燥はどちらが良いか、叩いたときの感触、香り、葉の落ち具合など検証が必要ですが、何にしても購入する必要がなく、ちょっと探せばその辺に生えているのですから気楽です。
いずれも古くから薬草として研究されていますから、効能をしっかり説明することができるのも良いところです。
お客さまが使い方を理解するまでは、ロウリュサービスと同じく、時間を決めてスタッフがやってあげる方が浸透が早いでしょう。リピーターが増えてくればセルフ化も可能です。
ロウリュを「熱波」と言い換えたように、日本の薬草を使ったヴィヒタも何か新しい呼称を考えると、新サービスとして定着していくのではないでしょうか。
動画:DIY サウナのためのヴィヒタの作り方
https://youtu.be/4l26UaRylSg
(2017.6.17)
◆人手不足とロウリュ
温浴業界の人手不足が深刻です。全国的に人員確保が厳しいようです。温浴施設は小売業や飲食業以上に仕事が大変で、3Kな上に給与水準が安いときたら、人材確保に苦労するのは当然かもしれません。
雇用条件の改善も必要ですが、一方で省力化によって必要な頭数を抑えることも考える必要があります。
以前、正月のイベントを人手のかからない方法に切り替えて実施した話を書きましたが、館内イベントは施設の基本価値に+アルファしているものなので、やり方を変更しやすいと言えるでしょう。
しかし、もしロウリュイベント(アウフグース)を定期開催していたとすれば、それは施設の基本価値としてお客様に評価されていた可能性があります。
省力化のためにロウリュイベントを突然やめてしまったら、がっかりするお客さまが多数いることでしょう。
そこで、思い出して欲しいのがサウナの本場フィンランドです。フィンランドでは商業施設ではない個人所有のサウナが多く、そこではロウリュイベントはありません。個々が自分でサウナストーンに水を掛けるのです。
古くからロウリュが文化として根付いているから出来ることではありますが、日本のロウリュもこの20年でかなり認知されるようになってきましたし、ロウリュイベントを体験して、ロウリュがどういうものか理解している消費者は増えています。
特にこれまで何年も続けてきた施設では、ロウリュを分かっているリピーターのお客さまがたくさんいるはずです。
そこで、そろそろセルフロウリュに踏み切ってもいいのではないかと思っています。
スタッフによる本格的なイベントは1日1回程度に減らし、後はお客さま自身で水掛けをしてもらうのです。
水の掛けすぎによるサウナストーブの故障が心配ですが、石積みを増やすことでそのリスクを減らせます。
ストーブ内部に水が落ちないような細工をすることも考えられます。そのツールは弊社でも現在研究開発中ですので、いずれ発表したいと思っています。
あと、水掛けのやり方や注意点については、大きめのPOPを掲示する必要があるでしょう。参考までに文例を書いておきます。
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セルフロウリュ【self loyly】
熱波を自分で起こす楽しみが増えます。
1.ひしゃくで1~2杯程度、サウナストーブ上部の石(サウナストーン)にゆっくりと静かに水をお掛けください。
2.水掛けの際は、お客様同士で了解・確認を取ってから始めていただきますよう、お願いいたします。
3.水を掛け過ぎると水蒸気が大量に発生し、サウナ室内が急激に熱くなって危険です。またストーブ故障の原因ともなりますので、少しずつ掛けていただきますようご注意ください。
※サウナストーブは大変高温となっております。万一、怪我や火傷の場合には、当店では責任を負いかねますので、充分ご注意ください。分からないことがありましたらスタッフまでお尋ねください。
ルールとマナーを守って心ゆくまでサウナをお楽しみください。
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(2017.2.7)
◆基本は繰り返し稽古
コンサルタントとして長いこと同じ業界で仕事をしていると、いつまでも同じようなことを言っているのは、自分が成長していないからでは?という気がしてくるようになります。
そして、もっとディープなノウハウを、もっと最新最先端の情報を提供しなければ、という方向にばかり思考が向ってしまいがちなのですが、一方で基本を大切にして、初級の人と一緒に反復練習するということもやはり忘れてはならないのだと思います。先日のイベントでの出来事から、そんなことを思いました。
添付の写真はフィンランドのロウリュとドイツのアウフグースを並べたものなのですが、先日のイベントに参加している温浴業界の人たちにこれを見せて、どちらがフィンランドでどちらがドイツか分かりますか?というクイズを出したのです。
フィンランドとドイツのサウナの違いをざっと書き出すと、
【フィンランド】
・ロウリュはフィンランド語でサウナストーンから立ち上る水蒸気を浴びること
・フィンランドでは家庭用サウナが大多数を占める
・ロウリュは自分でサウナストーンに水をかける
・タオル等で扇ぐことはせず、じっとして蒸気の動きを感じる。
・白樺の枝葉を束ねたヴィヒタで自分の身体を叩く。
・サウナは神聖なもので、ロウリュには精霊が宿ると考えられている
【ドイツ】
・アウフグースはドイツ語で「注水」というような意味で使われている
・ドイツには日本と同じように商業用温浴施設としてのサウナが普及している
・アウフグースは専門スタッフが水かけを行う
・タオルパフォーマンスや香り、光等による演出がある
・アウフグースは美と健康づくりを兼ねたエンターテイメントとしてとらえられている
…というようなことで、ぜんぜん違うものなのですが、約20年間も前からロウリュの普及に取り組み、セミナーやブログなどで事あるごとにお伝えしてきたつもりの私としては、誰にでも分かる初歩的な問題だと思っていました。
ところが、正解できたのは約半数で、残りの人は両者の区別が分からなかったのです。
温浴業界の人が本場のサウナのことをよく知らないというのはちょっとショッキングでしたが、空手の基本稽古と同じで、先へ先へと新しい技を求めるだけでなく、白帯も黒帯も関係なく大切なことはいつまでも繰り返しお伝えしなければならないのだと思いを改めました。
(2016.12.16)
◆進化するロウリュ
サウナ室内で水蒸気を発生させること自体は日本古来の蒸し風呂をはじめ幾多の歴史がありますが、本格的な商業サービスとしてロウリュ(ドイツ式のアウフグース)を日本で初めて導入したのは1995年、大阪ニュージャパンサウナと言われています。
私自身もニュージャパン方式のロウリュを手本としながら、全国各地でロウリュを普及させるお手伝いをしてきました。
「口上」→「水かけ」→「タオルによる扇ぎ」と進めるニュージャパン方式のロウリュは、言ってみれば正攻法のロウリュであり、的確なロウリュの説明と最適な水蒸気量や扇ぎの風量を追求した完成度の高いものです。
ロウリュを開催する店舗が増えるにつれて、徐々にサービス内容のバリエーションが増えてきましたが、なかなか本家を超えるロウリュサービスをする施設は出てきませんでした。
しかし、実はドイツではロウリュサービスのレベルも日本とは段違いに進んでいます。以前ミュンヘン空港の近くにあるTherme Erdingのサウナ室のバリエーションがなんと27種類、ということを書きましたが、ドイツのサウナで行われているアウフグースは、日本のそれよりもずっとバリエーションが豊富で、エンターテイメント性が高いのです。
考えてみれば日本でロウリュが始まってから20年も経過しているわけで、いずれニュージャパン方式を超えるやり方を確立する施設が登場するだろうとも思っていましたが、ついに出てきたようです。
それが2016年熱波甲子園女性の部で優勝した秋山温泉さんです。動画がYoutubeにアップロードされていたので確認したところ、これまで知られていたニュージャパン方式よりも進化したタオルの扇ぎ方を見せています。
「おぉ、この扇ぎ方はドイツの進化型タオルパフォーマンス!ついに出てきたか!」という感じです。
・秋山温泉熱波2016(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=LGCiVv4Poek
しかも熱波甲子園優勝ですから、これからこのようなレベルのパフォーマンスをする施設が後を追うように出てくることになるでしょう。これまでロウリュサービスを長く続けてきたところも、うかうかしてはいられません。
今後の参考までに、アウフグースのヨーロッパ選手権のハイライト動画をご覧ください。
・AUFGUSS EM 2015 Highlights(Youtube・海外ページのため閲覧注意)
https://www.youtube.com/watch?v=NseditMtDmQ
(2016.11.7)
◆サウナとテレビ
よく聞かれることシリーズで、「サウナにテレビは必要か?」というテーマがありますので、これもまとめておきたいと思います。
サウナ室にテレビを設置するのが主流になっているのは、日本だけです。至れり尽くせりの日本流モノづくりの一環ということもあるのでしょうか。
しかし、温浴施設が提供しているくつろぎや癒しにふさわしい環境づくりという面では、ドラマやスポーツ中継、バラエティ番組などの映像はふさわしくないと考える人がいます。
一方で、サウナにはテレビがついているのが当たり前と考える人は一定数いて、運営現場ではテレビがついていないとお客様から文句を言われることもあるでしょう。
テレビを設置すれば、こんどはチャンネル争いがあります。大相撲中継がいいのか、話題のドラマがいいのか。テレビ画面はひとつしかないので、運営現場としては悩まされる問題のひとつです。
ちょっと視点を変えて、飲食店を思い浮かべてみてください。テレビを設置している飲食店のほとんどは大衆食堂か、スポーツ中継や古い映画などの特定コンテンツを雰囲気づくりに利用するバーでしょう。
美味しい料理やおもてなしを店のメイン価値として提供しようとする飲食店はテレビを設置しません。せっかく美味しく食べてもらおうと思って精魂込めて作った料理が、テレビに気を取られたままうわの空で食べられてしまったら寂しいでしょう。
とはいえ、飲食店をどのように利用したいかは人それぞれです。特別なご馳走やおもてなしを提供することばかりが飲食店の役割ではありませんから、テレビを見ながらの飲食もそれはそれで有りでしょう。
サウナも同じことで、効果的に身体を温め、発汗を促進する設備環境。換気や香り、照明にもこだわり、いつも清潔に清掃し、マットも頻繁に交換し、さらにロウリュサービスも、ということになってくれば、テレビは邪魔になってきます。それよりも、提供する側としてはじっくりと最高のサウナ環境を楽しんでもらいたい。目を瞑って静かに心身の疲れを癒して欲しいと考えるようになるのではないでしょうか。
一方そこまでのサウナ環境でなく、熱さと苦しさを我慢して気を紛らわせる必要がある状態ならばテレビはあった方がいいということになるでしょう。
その中間的な選択肢としては、テレビは設置するけど流すのは環境映像等が中心でバラエティ番組などは流さないというやり方や、普段はテレビ画面が隠されていてどうしても皆が見たい番組がある時だけテレビが登場する、というような事例もあります。
私が現在国内で最高のサウナだと思っているのは、大阪なんばにあるニュージャパンスパプラザのストーンサウナです。温度バランス、デザイン、ロウリュパフォーマンスどれをとっても最高水準ですが、なぜかこのサウナ室にはテレビがついています。利用者の立場で言わせてもらえば不要なのですが、サウナにトップレベルのこだわりを持つニュージャパンでもテレビの問題で悩むほど、微妙な問題とも言えるでしょう。
提供する側も利用する側も、良いサウナとは何かということについてもう少し経験を積むと、飲食店のように答えがハッキリしてくるのだろうと思っています。
(2016.9.9)
◆ロウリュの開催頻度
メルマガ読者の方からご質問をいただき、すぐに回答はしたのですが、結構よく聞かれることなのでここにしっかりまとめておきたいと思います。
サウナ入浴の時間は、そのサウナ室の環境や入る人の体調にもよりますが、普通の中温~高温サウナに健康な人が入るという前提で言えば、10分前後の加温時間が一般的だと思います。
そして汗を流して水風呂冷却まで1~2分。その後休憩(外気浴)を10分以上していると、すぐに20分~25分の時間は経ってしまいます。
休憩が一段落したタイミングでまたロウリュイベントが始まるなら、またサウナ室に行って一汗かくことになるでしょう。
そうやって数セットの加温→冷却→休憩を繰り返しているうちに、深いリラクゼーションと自律神経のリセット、いわゆる「ととのった」状態に至るのです。
ですので、理想的にはロウリュ開催頻度は30分に1回ということになります。
ところが、現在そのような高頻度でロウリュをやっているのは、大阪のニュージャパンサウナと神戸の神戸サウナ&スパくらいでしょうか。
今のところロウリュを開催する施設の大多数が1日に数回程度の開催頻度です。
開催頻度をなかなか上げることができない理由は、主にスタッフの負担と、サウナ設備の負担が挙げられます。
ロウリュイベントを本格的にやると、トークから水掛け、扇ぎで数分から十数分間はサウナ室で過酷な仕事をすることになります。
お客さんと違って、終わったらすぐに水風呂や休憩というわけにも行きません。
それを1日に何回やるの?と考えると、いくらお客さんが喜ぶことでも安易に開催頻度を上げられないのです。
しかし、これには解決法があります。
ロウリュというのはフィンランド語ですが、フィンランド式のロウリュには派手なパフォーマンスやタオルの扇ぎはありません。
フィンランドのサウナは営業施設よりも家庭用が多く、ロウリュは基本的にセルフで水掛けだけを行い、発生した蒸気が自然にサウナ室に充満してくるのを静かに楽しむのです。
浴場巡回のついでに、一言あいさつしてからサウナストーブに水を掛けてすぐに出てくるだけなら、スタッフの負担は軽いものとなります。30分や60分に一度くらいならできないこともないでしょう。
さらに、もう少し時代が進んで、ロウリュがどういうものか分かっているお客さんが増えてきたら、セルフロウリュに切り替えることも可能でしょう。現時点でも日本に数件のセルフロウリュOKの施設があります。
ドイツでは、サウナストーブへの水掛けはアウフグースと呼ばれ、興味深いトークや見ていても楽しいタオルパフォーマンスなど、一大イベントへと発展しています。日本で現在主流となっているのはドイツスタイルです(本場のパフォーマンスレベルにはまだ及びませんが)。
サウナファンを増やし集客につなげるためには、イベントとして盛り上げた方が効果的だとは思いますが、毎回ドイツ式でやるのでは大変ですから、フィンランド式とドイツ式を組み合わせて運営負担とのバランスを調整すれば良いと思います。
もうひとつ、サウナ設備への負担という問題がありますが、これはサウナストーブの機械部分に水がかかってしまうかどうかで変わってきます。
短時間に連続してロウリュをやると、サウナストーンが十分に熱くなっていないために水がすぐに蒸発せず下まで落ちていく可能性が高くなります。そして機械部分に水がかかると故障のおそれがあるのです。
これを防ぐためには、ストーブに積むサウナストーンの量を増やしたり、内部に水が入らないような仕切りを入れる改造をするなどの方法があります。
また、サウナ室の加温用ストーブと水かけ用のストーブを別々に分けダブルストーブとする方法もあります。
いずれにしても技術的には解決できることですので、ストーブの問題でロウリュの開催頻度アップを諦める必要はありません。
(2016.9.8)
◆ロウリュ用アロマの話
アクトパスでは、ロウリュ用ポータブル蒸気発生器「熱岩石」のレンタルサービスを行っています(レンタル料1日目4,000円、以降3,000円(税抜))。
主に熱岩石を購入する前のお試しでご利用いただくことが多いのですが、貸し出しは熱岩石本体とマニュアルのみで、カセットコンロ、水かけ用の桶やひしゃく、アロマオイルなどは付属していません。
お試しなので、桶とひしゃくはワインボトルなどで代用し、アロマオイルや芳香液も自前で調達されていることが多いのですが、時折返却から戻った熱岩石のサウナストーンに香りのする樹脂のような何かがベッタリと付着していることがあります。
おそらく人工のアロマオイルだと思うのですが、これが水、お湯、洗剤などでいくら洗っても落ちないのです。
洗いながら、「いくら洗っても落ちないコレを水蒸気と一緒に吸引しても大丈夫なのか?」と心配になります。
臭いも残っているので、まだ使えるサウナストーンなのですが仕方なく廃棄しています。
私自身も、入浴客としてロウリュを受けている時に、アロマが目に染みて閉口した経験があります。ロウリュサービスをする側としてはいつも天然のアロマオイルを使っていましたので、そんなことは一度もなかったのですが。
浴場市場では、ロウリュ用のアロマとして、天然のアロマオイルか、ロウリュ専用芳香液(ドイツ製のサウナコロン)を販売しております。
一長一短ですが、経済性は同等、香りに対するお客様の評価はやはり天然のアロマオイルに軍配があがるようです。またアロマセラピーで使われているものですから、効果効能をうたうこともできます。
いずれにしても、人がアロマの微粒子を吸引する前提で作られた製品であり、これまでロウリュに使用されてきた実績もありますので安全性には問題ありませんが、それ以外の芳香製品には上記のような現象もあっておすすめできません。
アロマオイルにはいろいろあって、天然のエッセンシャルオイルの中には目薬のような小さなボトル(5ml)でも何万円もするような稀少品もあります
本物の植物を使い、手間のかかる方法でわずかな製油を抽出しているので、そんなに安くはできないのです。
一方で、現実には100円ショップでもアロマオイルは売られています。これはよほど希釈しているのか、それとも人工香料を使っているのでしょう。
本物のアロマと人工の香料。価格はまったく違いますが素人には嗅ぎ分けられないかも知れません。
どちらを使うべきかは自明のことだと思います。
※アクトパス.info <http://xn--cck0a4a9c2b.info> ロウリュ関連備品について
http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/692075/176318/69488930
(2016.6.7)
◆サウナマーク
みなさんはサウナに入った後に身体に出てしばらく消えない、マダラの模様をご存知でしょうか?
私は以前からサウナマークと呼んでいます。一部のサウナマニアからは「あまみ」とも呼ばれているようですが、正式な名称は日本語にはまだありません。
身体をよく温めてから、しっかり冷やすと出るようですが、サウナによって出るときと出ないときがあり、どのような条件が揃うと出るのか、よく分かっていません。
しかし、このサウナマークが最も激しく出るサウナはいつも決まっています。
大阪なんばのニュージャパン スパプラザにあるストーンサウナ。言わずと知れたロウリュ発祥の地です。
ここのサウナ室の作りには、半端でない数々のこだわりが投入されています。作ったご本人からいろいろ教わったのですが、当時若かった私には話が深すぎて全容を理解するには至りませんでした。
様々な工夫の相乗効果なのか何なのか、まだ解明できていない謎があるのですが、表面的な熱さだけでは計り知れない何かが身体に作用しているのは間違いないようです。
スパプラザのストーンサウナが今のような形になってから20年以上の時間が経っていますが、それに追いつき、越えるサウナがいまだに出てこないことは残念です。
古くからあって、今も続く施設には、先人たちの知恵と工夫がたくさん詰め込まれています。
目新しいだけでどれも似たようなニューオープンの施設をいくら見たところで、たいして学ぶことはありません。
視察に時間を割くなら、古くても輝きを失わない、老舗の温浴施設をじっくりと視察してみてください。
何十年という時を経て、どうしてその形でそこにあるのか、それを究明することが、事業を永続させる決め手につながると思っています。
(2016.5.13)
◆ロウリュ研修
もうこれまで何回やってきたか分かりませんが、昨日は熊本にてロウリュ研修をやりました。
お客様の前での実演もしたのですが、現役で毎日タオルを振っていた頃と比べると、持久力もキレも落ちているのを感じました。
やり方を頭で分かっているだけではダメで、高いパフォーマンスレベルを維持するには日々の修練が必要なのです。
ロウリュは、同じように水を掛けて蒸気を発生させているつもりでも、その日の気温や客数、そしてトークの内容や時間のかけ方、タオルで起こす風の質などのバランスによって、お客様の感じる満足度は大きく変わってきます。
設備による自動ロウリュや、うちわの導入によるロウリュスタッフの負担軽減という選択肢もありますが、本当は人による水掛け、タオルによる蒸気撹拌や送風にこだわってほしいと思っています。
微妙な調整を行いながらその時々で最高のパフォーマンスを追求することができますし、レベルアップしていけば他には簡単に真似できない独自性のあるイベントへと育っていくのです。
そういう仕事こそが、プロフェッショナルとしての腕の見せどころなのではないでしょうか。
(2016.3.29)